あの日の台所 6

鏡の前の父

朝昼晩、舌の下にオイルを垂らす。背骨の周り、首、肩、気になる肌のシミにも軟膏を塗った。

数日後、便が毎日出るようになった。 痛みが減り、文句を言わなくなった。 食欲が戻り、私より軽かった体重が元に戻り始めた。 眠りが深くなり、夜中のトイレの回数が減った。

そしてある日、こっそり父の部屋を覗いたら、大きな手鏡で自分の顔を確認していた。薬の影響で黒ずんでいた肌が、少しずつ明るくなってきていた。その変化を、自分でじっと確かめていた。

誰にも言わず、一人で嬉しくなった。

体力がついてくると、杖をやめた。散歩の回数が増え、一緒に外食も楽しめるようになった。孫たちが実家に戻ってくる回数も増えた。90歳の誕生日には、私との晩酌を楽しんだ。腎臓の数値も、一定を保つようになった。

91歳の父の回復は、何度も目を見張るものがあった。

帯状疱疹にかかった時も、熱はなく症状は軽かった。皮膚科の医師に「高齢だから覚悟して」と言われたが、2日後に戻ると、カルテを見直しながら「最後に来たのはいつでしたっけ?」と首を傾げた。毎年悩まされていた花粉症も、それから発症していない。コロナ患者と接触して新幹線で帰ってきた時も、父だけが感染しなかった。

風邪もひかない。インフルエンザにも、コロナにも。

薬を必要以上に信じないオーストラリアの医療を見てきたから、私は薬を調べる癖がついている。本当に必要な薬なのか。数値が改善しているのに、量も種類もそのままでいいのか。そう考えるたびに、植物の力が改めてすごいと思う。

予防にもなり、即効性もある。必要なところを見つけて、そこから修復していく。体が本来持っている力を、もう一度引き出していく。

神様の植物、と私は思っている。

Yoko Imoto

オーストラリアと日本をつなぐ暮らしの記録

https://www.instagram.com/ikusaki_yoko/

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